アウトサイダーにとっての大学研究室


アウトサイダーにとっての研究室

 僕は学部と大学院修士課程で、所属研究室が変わりました。学部時代に所属していた「複合領域コース」に修士課程がなかったからです。

「研究室」は現代の寺子屋

 私が在籍していた大学は指折りのマンモス私大で、300〜400人規模の講義も少なくありません。しかし、そんななか、研究室は全員合わせても数十人規模で、修士課程の学生は1学年6〜7人です。こうした環境を「寺子屋」と呼ぶ教員もいます。

 大半の各研究室には、狭いながらも学生専用のスペースがあり、学生は常駐して有形無形のコミュニケーションを通じて様々なことを学んでゆくのです。大学の重要な機能の一つに、全国から集まる学生が互いに摩擦しあうという点があるでしょう。

新興領域の学生の環境

 私は、学部3年次の研究室配属で、一旦この機械工学科を離れ、当時できたばかりの「複合領域コース」配属となりました。私の学年で4期生で、配属決定の時点では2期生までの進路実績しかなかったという状況で、周囲の学生は誰もが「なぜそんなところへ行くのか」と言ったものです。

 複合領域コースは一般教養をベースに発展させたもので、研究室も他の文科系学部と同様に教員のスペースしかありません。「学生指導室」という名称で学生用のスペースが確保されてはいたものの、複合領域全体で旧来の1研究室分のスペースしかなく、4年生と言えどもとても常駐できる環境ではなかったのです。

 必然的に、教員も含めた互いのコミュニケーションは電子メールが主体になりました。ただし、定期的に(基本的に週1回)研究室や共通ゼミ室に集まってレジメをまわしたり直接の指導があったりします。

 「電子メール主体のやりとり」というと、face to face のコミュニケーションを否定しているように受け取られがちですが、決してそのようなことはないのです。

研究形態の変化

 これまでの理系の研究テーマと言えば、実験中心で研究室にこもりっきりになる、というのが通例でした。実験設備は大学ないしは外部の研究機関にしかありませんし、実験を助手〜M2〜B4の複数人からなるチームで行うなら、1ヶ所に集まるのは合理的です。

 しかし、機械工学科の研究室でもシミュレーションが研究テーマである場合が増えてきました。近年はPCの性能も上がっています。通信コストもこの3年で格段に下がりました。僕が卒論を書いていた2001年末まで我が家はダイヤルアップ接続でしたが、ブロードバンドは都市部において急速に普及し、いまや大半の家庭に引いてあります。

 とすると、研究室とほぼ同じ環境を家庭に構築することはあまり難しいことではなくなってきました。唯一、ソフトの使用ライセンスの問題が残るのみです。

 しかし、そのようななかでも、旧来の環境を前提にした指導体制が組まれていたのです。

大学院生の生活

 大学院の修士課程は2年で、修了単位は30です。30単位くらいなら1年で取れます。なので、1年生のうちに大半の単位を取り、2年目は論文に専念、というのが通常のパターンです。M2はB4と組んで研究を進め、B4の指導も行います。

学生の常駐は必要か

 まず、M1は結果的にほぼ常駐となります。履修する科目がそれなりにあり、授業の合間の空き時間も多くあります。また、大半の学生はアルバイトもするので、やはりその「すき間」の時間を研究室で過ごすことが多くなります。

 私が疑問を呈したいのは、M2についてです。これだけ環境が変化してなお、研究室での常駐は必要でしょうか。

指摘されたことを整理してみる

 在籍当初から、周囲とは摩擦が絶えませんでした。ある意味「郷に入れば郷に従え」で反論をあきらめていた部分もあります。もちろん、どうしても納得できずに従わなかった点も多々あります。いまひとつ整理してみたいのです。

M2が常駐しないのはおかしいか

 私がもっとも悩んだのは、この点です。B4が私に相談したいとき、周囲がちょっと声をかけたいときに私がいないのはおかしい、というものでした。

・コミュニケーションを必ずしも口頭で取らなければならない必然性は、ない。
・会う必要があれば、その都度約束をすればよい。そのためのコストは極めて低廉である。
・私は基本的に朝型である。逆ならともかく、わざわざ健康を害すると言われる夜型に生活サイクルを変える合理性が認められない。

 電子メール中心のやりとりが、face to face の必要性を否定するものではないことは上で述べました。ただし、口頭でのやりとりの大半は文書化できます。また、むしろ文書のほうが効率的であることが多いです。やりとりのすべてではなく、その重心を電子メールに移すくらいのことが、否定されるべきでしょうか。

 文書によるやりとりのほうが効率的であることは、次のことが証明してくれます。効率と利益を追求しているはずの企業社会では、全員が同じ職場に集まり、フレックス制でも必ずコアタイムがある職場でも、電子メールによる情報伝達が普及しています。

“有形無形のコミュニケーション”は研究室で調達すべきか

 上で述べたように、「全国から集まる学生が互いに摩擦しあう」ことは、大学の重要な機能です。だから「設備三流、教授五流」などと事実無根とも思える揶揄がなされる大学でも、学生は集まるのです。

   私が在籍していた研究室の場合、院生には事務机が一人一つ割り当てられました。ところが、私が配属になった2002年度初頭には、M1の机にはPCが7人に1台しかなかったのです。当然、私は騒ぎだしました。ちょっと騒ぎすぎたきらいもありましたが、21世紀初頭に、日本で最先端を走っているはずの私立大学の理系研究室で机にPCが置いてないなど、考えられなかったのです。

 M1のうちは講義が多く、大学に頻繁に来ているうえに

 旧法新法
教職に関する科目1923
教科に関する科目4020
教科または教職に関する科目016
合計5959

 僕が散々苦労した「教科に関する科目」が大幅に軽減された一方、「教職に関する科目」が若干増えています。

 1998年度に入学して、2002年度以降も引き続き大学院に在学中の僕が一度でも学籍を途切らせると、強制的に「新法」適用です。「新法」で出そうとすると、数字の上でも「教職に関する科目」が足りなくなります。「単位修得証明書」をもらってみるとなぜか「新法」用のが発行されたのですが……

・教職の意義等に関する科目
・生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目(4単位必修のうち2単位分)
・総合演習

が足りません。これは面倒なことです……。それに、早稲田大学教育学部発行『各種資格取得の手引き』も

「卒業後いったん学籍が空いてしまうと新法適用となってしまいますから、できる限り現学部在学中に必要なすべての単位を取得するようにしたほうが賢明でしょう」
(2001年度版230ページ)
と言っています。どうやら旧法適用のまま取ったほうがよさそうだ、とずっと思っていました。

法の抜け穴

 という言い方もおかしいのですが、県の教育委員会に話を聞いてみたら、「免許法5条別表第1の備考9」というのを教えてもらえました。教育職員免許法の該当箇所を見てみると…

9.中学校教諭の音楽及び美術の各教料についての免許状並びに高等学校教諭の数学、理科、音楽、美術、工芸、書道、農業、工業、商業、水産及び商船の各教料についての免許状については、当分の間、この表の中学校教諭の項及び高等学校教諭の項中教職に関する科目の欄に定める単位数(専修免許状に係る単位数については、前号の規定を適用した後の単位数)のうちその半数までの単位は、当該免許状に係る教料に関する科目について修得することができる。
 僕が取りたいのは「高校理科一種」です。この場合、「教職に関する科目」の「半数まで」を「教科に関する科目」で置き換えてよい、というルールなのです。同じ理科でも、中学ではダメです。

 つまり、23単位の半数、11単位までは、「教職に関する科目」ではなく「教科に関する科目」で代用してよい、というわけです。旧法下で必死こいて「教科に関する科目」40単位をめざしていた人には大変ありがたい規定です。

 この軽減措置を受ける人の必修科目・単位は、「教育職員免許法施行規則」第6条のカッコ書きの数でよく、、

 教職の意義等に関する科目教育の基礎理論に関する科目教育課程及び指導法に関する科目生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目総合演習教育実習
規則26(4)6(4)4(2)23(2)
取得済み068203
(かなり簡略化しています。詳しくは本物をご覧下さい)

 上で足りないと嘆いた

・教職の意義等に関する科目
・生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目(4単位必修のうち2単位分)
・総合演習

は取らなくてよいことが分かりました。

どちらでの申請が有利か

 だとすると、話が変わってきます。新法と旧法、どちらで申請するのが有利か、検討する価値がありそうです。

旧法で申請

 必要数取得済み
教職に関する科目1919
教科に関する科目物理学(必修)48
化学(必修)44
生物学(必修)42
地学(必修)40
実験(必修)45
関連科目(選択) 13
小計4032
合計5951
その他の科目日本国憲法24
体育28

→59-51=8=生物学2単位+地学4単位+何か2単位、合計8単位が不足。

新法で申請

 必要数取得済み
教職に関する科目教職に関する科目1219
「教科に〜」から振り替え 4
小計2323
教科に関する科目物理学18
化学9
生物学2
地学2
実験8
「教職に〜」へ振り替え -4
小計2035
教科または教職に関する科目
(=教科・教職の余剰も含む)
1615
合計5958
その他の科目日本国憲法24
体育28
外国語コミュニケーション24
情報機器の操作23
※…最低一科目以上を履修

→59-58=1=教職または教科に関する科目が1単位だけ不足。

 一目瞭然で、新法で申請するほうが有利です。

 旧法下では「教科に関する科目」が32単位しか取れていないのに対し、新法では教職へ振り替えた分も含めて39単位も取れていることになっているのは、法改正に合わせて早稲田大学理工学部機械工学科が文部科学省から「課程認定」を受けなおしたからのようです。旧法下では認められなかった科目が新法下では認められていたり、逆にせっかく取ったのに新法下では認められなくなった科目もあります。
(……工業化学実験Iなんて、わざわざ他学科聴講までして取ったのに。。。)

認められた科目認められなくなった科目
物理学A
化学A
・バイオエンジニアリング
理工学基礎実験2A
理工学基礎実験1B
・生物学実験
・生産プロセス工学
エンジニアリング・クリエーション1
・物理化学実験(化学科)
工業化学実験I
・有機化学実験
・無機分析化学実験
太字は、僕に該当する科目

 実験科目の負担がかなり軽減されています。旧法下では、他学科で3年生以上配当の実験を履修しなければならなかったのが、新法下では、機械科1〜2年の必修科目で大半がまかなえるようになっています。これから免許を取る人には朗報でしょう。……せっかく取ったのが認められないのはつらいところです。。。

どう補うか

 さて、来年の3月には卒業・就職です。社会人をやりながら不足する1単位を取らなくてはなりません。

 一般的に思いつくのは、通信制の大学に通うことです。玉川大学などがやっており、玉川大学の場合はレポートを提出して試験を受ければ単位がもらえます。しかも、試験は年8回あり、受かるまで何度でも受けてよいのです。……早稲田の「生物学A」や「地球科学」の試験一発勝負に何度も泣かされた立場から見ると、単位を取ってくれといわんばかりの制度です。

 ここで注意すべきなのは「教職に関する科目」はもちろん「教科に関する科目」も、文部科学省から「課程認定」を受けた大学の単位でなければ新規に教員免許を申請するのに使えません。放送大学はダメなのです。(放送大学の単位は、すでに何かしらの教員免許を持っている人が別の免許を取るための「検定」用にであれば使うことができます)

 ざっと調べてみたところ、通信制の大学で、高校理科一種を取るための課程認定を受けている大学が、なんと一つもないのです。えええ〜〜〜っ、、、という感じです。私立大学通信教育協会のウェブサイトを見たときはショックでしたが、ここには加盟大学の情報しか出ていないので、もっと本気で探せば出てくるのかもしれません……もしご存知の方がいらっしゃいましたらご一報ください。

 それとも、「教職に関する科目」で補うなら、早稲田大学ではこれらの科目は教育学部に設置されていてどの教科を取る学生にも共通ですから、公民などで課程認定を受けている通信制大学のものでもよいのかもしれません。もう一度教育委員会に確認してみる必要がありそうです。

 因みに、「その他の科目」は課程認定の有無に関わらずどの大学のものでもよいのです。

夜間の大学…

 社会人でも通える大学というと、一般的には夜間の大学です。高校理科一種の課程認定を受けているところでは、東京理科大学の理学部第二部あたりが思い浮かびますが、単位が取れればよいのですから、授業料の安い国公立大学が望ましいのは当たり前です。正規に入学するのではなく科目等履修生なので、入るのは比較的容易でしょう。

 気になる授業料は、私立の例として早稲田大学理工学部は1単位あたり42100円、国立は全国共通のはずですが千葉大学では1単位あたり14400円(ともに2003年度)です。……早稲田の場合、大学院在学中は学部の科目等履修生の授業料が免除なので実は数科目登録しておいたのですが、何度も落としている科目ですし、修論のさなかに勉強するのは負担です。。。

 ただ、僕の就職先は鉄道会社で、入社後数年は現場です。つまり、勤務は昼だけとは限らず、さらに、週のうち特定の曜日が休みという勤務形態ではないのです。しかも、配属が決まるのは入社後で、東日本のどこへ転勤するか分からないという事情もあります。

 ……そうはいっても、不規則な勤務とはいえ、一度も出席できないということはないでしょう。それに、休日に勤務がある代わりに平日の休みがありますし、夜勤明けの日は昼の授業に出られます。つまり、昼の大学でもよいともいえます。

 大学や学部によっては、科目等履修生は後期から入学できるところもあります。入社後に配属が決まってからゆっくり探せばよいのでしょう。新法で申請なら、あせる必要もないわけです。

ほかの手段は?

 実は、ほかの手段も考えられます。ざっと思いつくだけでも

1.通信課程でほかの科目の免許を取ってしまう(公民とか)
2.教員資格認定試験を受ける
3.検定を受ける

 でしょうか。何らかの手段で何かしらの教員免許を手にすれば、同じ学校のほかの科目の免許を取ることは比較的容易(放送大学での履修も認められる)です。
(ただし、高校の免許を元に中学の免許を取ったり、その逆をするには、教員としての実務経験が必要です)

 学部で複合領域研究室にいた僕にとっては、公民など身近な科目ですが、公民は「教職に関する科目」の軽減措置がありません。ただし、書道・美術・工芸は、軽減措置があって、かつ、通信課程でも取得できる免許ですが、芸術分野はちょっとなぁ……といったところです。書道なんて勉強してみるのも面白そうですけどね。ただ、モタモタしているとまた法律が変わってしまいそうです。

 教員資格認定試験というのもありますが、試験を受けるには当然試験対策が必要なわけで、あと1単位を大学で取得するのと比べると、負担が大きいと考えたほうがよいでしょう。

 検定は資格認定試験とは別物で、書類審査と面談です。「第1級陸上無線技術士(通称「一陸」)」「3級海技士」の資格を持って一定の実務経験があればいれば、必要な書類をそろえて持って行くと教員免許が出ます。が、放送局の技術社員になるとか、海運会社に就職するのでもなければ、無縁じゃないかなぁと思います。鉄道会社でも無線は扱うのですけど、鉄道会社で使う資格は「第1級陸上特殊無線技士」ですし、連絡船も自社管内にはもうありません……。資格をもっていても、実務経験がないと臨時免許状しか出ません。

 臨時免許と1種免許は大違いです。臨時免許はその名のとおり、期限は3年で、しかも免許を受けた都道府県内でしか使えません。
 高校には2種免許がありませんが、2種免許は免許法第9条の2で「相当の1種免許状の授与を受けるように努めなければならない」と決まっているだけで、教員として出世を目指さなければ効力は1種免許と変わらないのです。

中学の免許を取るなら?

 中学の免許を新法で取るのはかなり難しいようです。まず、上に挙げた「教職に関する科目」を「教科に関する科目」で代替することが、中学理科では認められません。(中学は美術と音楽だけ)

 次に、中学の美術と音楽のうち、通信課程で取得できるのは美術ですが、1998年度入学者から中学の免許を取るのに必要になった「介護等体験」が若干変わり、新法下では「介護等体験」のほかに「介護体験実習講義」(←早稲田大学での科目名)が必修になっています。旧法適用の私が体験した2000年度は単に「介護等体験オリエンテーション」だったはずの4月の集中講義などが、新法適用者が3年生になった2002年度から正式な科目になったようです。

 中学の免許を取るなら、引き続き旧法で履修したほうがよいようです。が、社会人になってしまうので、通信課程で取れない以上は不可能に近いでしょう。上に書いたように、資格を取って臨時免許か、実務経験もして2種免許を取るという方法もあります。

関連リンク

教育職員免許法 (「法庫」サイト内)
教育職員免許法施行法(抄) (「法庫」サイト内)
教育職員免許法施行規則 (「島根の教育研究会」サイト内)
私立大学通信教育協会
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